日本画家 井木紫人について

2002年、素晴らしい金魚(らんちゅう)と出会いました。
らんちゅうの模様や泳ぎ、美しさ、形、すべてに魅かれました。
それから「誰も描いたことのない金魚画を描きたい!」
と思いはじめ伊藤若冲の鶏ように家の庭で本格的に金魚を飼い始めました。
より自然に近い形で飼育し本格的な飼育方法を学び試行錯誤を重ね、本当の金魚の楽しみ方を知りました。
そのすべてを絵にすることこそが自分の進むべき道だと考えました。

〜掲載誌とご購入について〜
日本画家 井木紫人の作品購入については(株)美術新星社 発行『美術市場2013』、株式会社美術年間社の『美術年間 art annual 2013』掲載に基づき1号=¥35,000よりとさせていただきます。

ART studio GENCOについて
『アートスタジオジェンコ』はイラストとデザインを中心としたブランドです。井木紫人は日本画、ジェンコはイラスト&デザインです。日本画作品とは価格が異なっております。



お問合せ先 ranchiu@hm10.aitai.ne.jp
日本画家 井木紫人

2016年8月2日火曜日

夢かなうの巻


《芳年》

  数年前、たまたま京都で版画専門店を見つけました。広重、北斎、国芳、写楽などなどたくさんの作品がある中で月岡芳年を発見!以前から芳年が大好きでいつか作品を手に入れたいと思っておりました。芳年作品を見つけた瞬間、喜びと感動で手が震えました。しかし冷静に考えると、そこに見た芳年作品は自分が欲しい物ではありませんでした。すう〜っと、目が値段に…ん…?ビックリ!気軽に買える値段ではありません。物によっては写楽、広重よりも高いんです。なぜだ?どーして?
早速店主をみつけ、
「すみません。」
「すみません!芳年はどーして、こんなに高いんですか?(芳年は明治の作家です。広重、写楽は江戸時代の作家。絶対に古い人の方が高いに決まってる!という思いで尋ねた)」
店主は奥の隅にある古書に囲まれた薄暗いところに椅子に座っていました。仏頂面でわたしがど素人とさとっていたようで完全に相手にしないそぶり。しかしわたしが訪ねたので、仕方ない感じで目だけがこっちを向いて、
「お客さん。版画のこと知ってる?こーゆー物なんだよ!」
と叱るような口調で言われました。
カチン‼︎ときてスグに店を出ました。何であんな言われ方されるんだ⁈あの時は本当に頭にきましたね。版画の事を知らないんだったら止めときな!って感じでした。今思えば、もっと版画、浮世絵のことを勉強してきた上で店に来な!ということだったんでしょう。

  あれから悔しくて芳年の専門書を買い集めネットで調べたりしながら芳年についていろいろ知識をつけました。ある時は神奈川で芳年展があると聞き行ったこともあります。月をまたいでの2部構成と知り。2ヶ月続けて日帰り高速で町田市にある版画美術館に日が暮れるまで観た日もありました。その時は学芸員を捕まえて自分はド素人だからとトコトン根掘り葉掘り芳年について聞き説明してもらいました。その甲斐あって、たくさんの芳年本がある中で選択肢が狭くなりました。東京は原宿にある太田美術館にも朝からずっと観た日もありました。その時は芳年と国芳でした。血生臭い作品も多く描く芳年ですが、『月百姿』『風俗三十二相』なんかは人物の雰囲気やポーズ、気配なんかも見えてくる作品でたまらなくひきつけられましたね〜

  さて、それからまた数年後。
またまた京都に行く機会があり、やはり芳年作品が欲しいあまり、あの店へ行ってしまいました。あのオッサンしかおらず、
「すみません。芳年の月シリーズか武者シリーズとかってありますか?」
「ん〜うちには、こんなんしかないよ。」
と作品を探してくれました。
「お客さんの欲しいのはこんなんじゃないよね?残念だけどコレしかないよ。」
(もちろん自分のことなんか憶えていないに決まってます。)
「んーーー。これって月シリーズでも人気作品じゃないですよね?しかも、この部分がイマイチですね。」
「だから、安いんだよ。でも芳年だから他の作家に比べて結構高いんだよ。芳年はここ数年人気が上がってきてるからね〜数年前に比べると数倍値段が上がってるよ。しかも入って来ないしね〜うちにはコレだけしかないよ。」
ココには自分が買うべき作品がないとさとりました。
「申し訳ありませんが、どーしたら好きな芳年作品を買うことができますか?」
オッサンが自分の座る椅子の後ろにある本をさっと取り出して見せてくれました。芳年の作品に値段が付いた本でした。カタログといった感じでした。
「芳年はこの値段で取引がされてるんだよ。フフフフフフフフ。」
「本当に芳年は高いですね〜で、その本はいただけますか?」
「これは売りもんじゃないから、あげられないな〜」
「では、出版社だけでもメモさせて下さい」
「ほい。」と差し出して見せてくれました。
そこには東京は神保町の住所が書かれてありました。

  それから数ヶ月後、またまた東京に行く機会があり、ふと思い出した「芳年」と「神保町」のキーワード。どーしても探したくなり、神保町へ。
そしてついにお店を発見!
入ってビックリ、
「おおぉぉぉォォォーーーー!」
「す、す、す、すごい!」。
芳年、国芳、広重がズラリ、額に入って並んでおります。京都のあのお店で見た作品とはケタ違いに状態は良さそう。しかも値段も高い。コンディションがイイんでしょう!
「す、す💦すみません。芳年を探してるんですが、ありますか?」
「ありますよ。」と女性店員が対応してしてくれました。
「ひゃーーー!あるんすか⁈」
「見せて下さい。」
「何をお探しですか?」
「えっ!何があるんすか?」
店員の女性が差し出したのは、あの例のオッサンが見せてくれたカタログ本でした。
「あちゃーーーー!コレ!コレ!」
カタログを開いてビックリ、
「何じゃーこりゃーー!」
そこに見たのは専門誌や美術館でしか見たことのない作品ばかり。
「すみません。ド素人で悪いんですが、今ココに載っている作品はココにあるんですか?」
「ありますよ。」
プッシュ〜〜「マイッタ!」
「あるんか〜〜〜〜〜い」
「ま、じ、か‼︎」
「す、す、すみませんが、こ、この、作品が見たいです。」
と、お店にあるすべての芳年作品を出していただき目の当たりにしました。頭から湯気が出る思いでした。あんなに苦労して探した作品が今ココにはこんなにあるんです。感動でした。美術館で観た作品と同じなのです。もう頭の中がパニックで買うことよりも、本物に触れた喜びが大きすぎて買うことを忘れてました。数時間後、冷静になり自分が本当に欲しい作品とは何であるか。自問自答し財布と相談し、迷っていると、女性店員からの提案がありました。神保町には他にも近くに古書や版画のお店がたくさんありますから、そちらを見てからでも結構ですよ、とのこと。早速他店を紹介をしていただき何店かの店を回り数多くの芳年作品を見てきました。神保町の版画専門店は組合みたいなものがあり、みんなで版画を売っていきましょう的な感じで昔ながらの売り方をしてました。そのおかげでたくさんの芳年作品を見ることができたのでした。結局、その日は決めきれずまた改めてお店にうかがうことにしました。そしてあのカタログが発行され次第自宅まで送っていただく手続きをしました。それから数ヶ月後、あの本が届き、感動の渦の中またまた迷うのでありました。

  また数ヶ月後。
また神保町へ行きました。もちろん、まっすぐにあのお店へ。
お店に長居をしているといろんなお客さんと会うことができます。みなさん自分の好きな作品を探しているんです。若い女の子もいました。浅草シリーズを探す男性。毎週入ってくる版画を求めて来るお客さん。そんなお客さんとお話をする機会があり、
「海外の作品に比べて、これは手ごろですよね。本物だし。日本の文化だからね。」
版画は版木と呼ばれる版があります。刷ったあとは薪や工芸品になってしまうそうです。たくさん刷ると凸部の線は丸くなり使えなくなるそうです。だから版画は限られた枚数しか存在しないのだそうです。しかも枚数を重ねたり、再度刷ったモノは色も違えば出方も変わり最初とは違うモノも存在するそうです。やはり色、線の素晴らしい作品は高価な値段で取引がされるようです。数多くの取引をするお店はたくさんの作品を見ているので、本当によく知ってますね〜作品のヒストリー、物語、そこにまつわるお話などなど興味深いお話もできる神保町の版画屋さんはオモシロイです!

  数ヶ月後、芳年作品を買う運びとなりました。数年かけて、やっと!やっと!好きな作品と出会い夢かないました。